狩猟ライフ③ | 命をいただく

※鹿の解体の写真を含んでいます。苦手な方は観覧をお控えください。

目次

鹿の解体

鹿の胸にナイフを刺し意識が遠のいていく様子を優しい眼差しで見つめる川辺さん。最後までしっかりと見届ける…

私はふと周囲を見渡した。山と海。一つの命が儚く終わる。海も空も青々とし、風はそよぎ、静かに時は進んでいた。

車を走らせた先は “DEER BASEしかまる”
ここで解体を行う。

DEER BASEしかまるの代表である高山広次さんが笑顔で川辺さんを迎える。
長身で屈強な体格の男。にっこり笑う高山さんには山の男と言える深いシワが刻まれている。余談だが靴のサイズは31センチだそうだ。

解体は待ったなし。すぐに始まる。
まるで先ほどまで生きていた生命とは思えないほどのスムーズでまるで機械のような精密さで解体は進む。

天井から吊るされた鹿の皮を剥ぎ取り、手を切断し、内臓を全て出す。まるで手術のオペ室にいるような感覚にさえなる。センチメントの入る隙間はない。

常に笑顔の高山さん。何を想い彼はこの仕事を続けるのか…

高山さんが本音をこぼす。
「この仕事を一人で黙々とやっていると本当に深いところに落ちてしまいそうで危険だ。そうならないように維持することが大事なんだ」

笑顔の陰には、高山さんの長年の経験からくる狩猟の厳しさの知恵があったのだ…

生命をいただくこと、に慣れてはいけない。慣れてしまえる。慣れてしまったら何かが違った方向に行ってしまう。そのギリギリを維持し続ける。

そこに私は人間として深いシンパシーを抱かずにはいられない。そして肉を食すること、までのプロセスがいかに過酷であり人間的であるかを知った。

高山さんも鈴木忠治さんのお弟子さんだったそうだ。高山さんは今は解体業に専念し狩猟には行かないそうだ。川辺さんの持っていたナイフの長さを「もう少し長いほうがいいね」というときに彼の目は猟師の目だったように思う。それでも彼は笑顔を絶やさない。

自然の生態系の変化

川辺さんが鈴木忠治さんとの面会をセットアップしてくださった。鈴木さんは噂とは想像もつかないほど温厚で物静かな方だった。きっと現場では厳しい方なんだろう。

鹿が増えてしまったことを語り始めた。短い時間で、詳細までは伺えなかったので後日改めて映画撮影でうかがいたいと思う。

日本オオカミの絶滅は鹿の大量発生に大きな影響を及ぼしたようだ。そして杉の木を植林した、植林政策の時代のお話を伺った。そのことが日本全国で発生し、山の生態系を大きく変えてしまった。

話は土砂崩れが起こる原因にまで及んだ。自然に根を張った木でないと土は弱い。鹿が木の葉や実を食べ尽くし動物の生態系にも異変が起こる。やがて食糧難になった鹿が人口が減少し過疎化した村へ山から降りてくる。

これからのライフスタイル

話を伺っていると、これは鹿の話ではなくこれからの日本人の話のように感じさえした。食料を求め人はこれからどう生きるのか?

新型コロナで多くの職が奪われ、今何をすれば良いのか?多くの日本人が考える時代に突入した。そもそも自分たちの築き上げた価値とは何だったのか?

都会での仕事に心を燃焼させた人々が本当の生きる充足感を求めている。生きるための衣食住の知恵や知識、経験を持たなくなった我々人間が次に向くべきは、稼ぐために働くことではなく、生きる充足感のためではないだろうか?

川辺さんは今、害獣の単なる駆除のための狩猟ではなく新しい未来を開拓しようとしている。自然界と人間界の共生、循環を見据えている。

後継者不足の狩猟の世界で、不思議なことに銃の免許会場にはミーハーな参加者が溢れている。つまり狩猟免許、ライフル銃の免許を欲して参加するものが数多くいるのだが、生態系維持や循環、生活のために猟師をやる志のあるものはまだまだ少ないのだ。

川辺さんは自身の猟師小屋 “白狼塾”で自分が現場で学んだノウハウを伝えることで猟師になるための具体的な道筋を作っている。試験会場でライセンスをとっても猟師になれるわけじゃない。

これから猟師になろうと思う者たちに狩猟のノウハウや、移住して生活として成り立つまでの流れを伝えていきたいと語っていた。

全ては行動から始まるのだ。

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