仕事のあり方、生活のあり方、が問われるターニングポイントにきている。突然仕事がストップし、生活が厳しくなり、今まで築き上げてきたものは何だったのか?何のためにがむしゃらに働いてきたのか?
何をもって生き甲斐なのか。人が生きるということは何なのか?
都心の生活から離れ静岡へ移住、プロの鹿撃ちの猟師として生活する一人の女性、川辺亜希子さん。彼女なぜこの生き方を選んだのか?そして彼女から見える世界とは一体どんなも景色なのか?
出会い
川辺さんを知るきっかけは私の母が切り抜いた新聞記事だった。東京での消費社会、使い捨ての生活に生き甲斐を感じることができなくなった女性の物語が綴られていた。
山で暮らしたいと移住し、そこで鹿狩りを知り、学び、生きた動物を殺し食べるという体験をすることで、命をいただく尊さを体感したのだそうだ。都会にいれば肉は綺麗に加工されスーパーに並べられている。そこから人間の衣食住の食に対するリアリティは生まれてこない。
いや、もしかすると…
目をつぶっていることを私たちが選んだのかもしれない…
私の母はいつも映像作家である私の今後の映画のネタになるようにと、印象的な新聞記事を切り抜き読ませてくれる。それがスタートだった。私はすぐにネットサーチを開始、この記事に関連する情報を調べた。そして川辺さんの活動を知ることになった。
いつか映画にしたいと思った…
そのためには川辺さんの生活を間近で体験しなければ本当に知ることはできないと感じた。そして2泊3日で川辺さんの提供する宿泊施設に泊まりながら活動を体験することになった。
狩猟への目覚め
東京から3時間ほどドライブ。川辺さんの住む小さな海沿いの町に到着した。川辺さんは旦那さんの川辺寿明さんとともに狩猟をフルタイムで行っているかなり稀なライフスタイルをおくっている。
ほとんどの猟師は期間限定で獣害を防ぐ目的で期間限定で狩猟をし、普段は違う仕事をしているものだが、お二人は猟師のプロとして365日活動することを県より認められている。
川辺さんは初めての狩猟体験を語ってくれた。生きた動物を殺し、解体し、調理して食する。食べることができなかったそうだ。生き物の生命を奪い、それを食するということに衝撃を受けた。同時に彼女の中には別の思いが浮かんでもいた。今まで食べてきた肉も生きていた動物たちのものだ。自分たち人間は感覚的に何かが大きくそれてしまったのではないか?
そして川辺さんは生きるということをもう一度見つめ直すことになったのだ。もともと、自然の暮らしに憧れ、自然の多い地へと移住した。そしてそこで彼女は想像以上の体験をしたのだった。
自然は甘くない。しかし故に自然も人もそこで必死に生きようとしていた。美しかった。
昨今、移住やIターンという言葉がよく聞こえるようになってきた。都心での消費生活に疲れた人たちが増えている。または第二の故郷を求めて…
伝統や文化、コミュニティが崩壊していく中、私たちは充足感をどこに向ければ良いのか?高度経済成長の延長でこのままいくことはできないと誰しもが心に抱いているのではないだろうか?
食べるために働いてきた時代から人の意識の中に変化が起こり始めている。
生きる=充足感を何に見出すのか?日本の衣食住が問われている。いや、実践していかなければならない時代が来ている。
川辺さんは移住したこの地で運命的な出会いをする。それは日本でもトップクラスの猟師であり、静岡県では「伊豆のオオカミ」として知られる鈴木忠治さんとの出会いだった。